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今昔物語

大学卒業後、当時の香川医科大学(現香川大学医学部)附属病院に歯科口腔外科研修医として勤務、その後川崎医科大学歯科矯正学教室に入局し臨床助手、矯正歯科専門開業医勤務を経て開業致しました。

卒後1年目の香川医大付属病院歯科口腔外科では、午前中は初診患者の予診(いつから、どこがどの様になったか?現在はどうか?という問診)を研修医が取る事になっていました。

自分が予診を取った患者さんをその後、教授がどの様に診断されたのか?「あの舌の潰瘍は良性なのか悪性なのか?」「あのレントゲン画像の透過像は何なのか?」「あの患者さん何で口が開かないのか?」など、1年目の私にとっては興味深い事ばかりでした。

現在、国家試験合格後1年目に義務付けられている歯科医師臨床研修制度の様に専門領域を学ぶ前に口腔外科を中心に一般歯科臨床(入れ歯、虫歯、歯周治療など)を経験できた事はその後の私の矯正歯科臨床に大きく影響していると思っております。

卒後2年目に川崎医科大学歯科矯正学教室に入局。確か1、2年が経過した頃、医局の4年先輩から「石井君、医科と比べて歯科はこんな狭い口を細かくし過ぎとると思わん?」「何でもっと口腔全体を診んのかな〜?」つまり補綴科、歯内療法科、保存修復科、歯周病科など歯科領域の診療科が細分化され過ぎている現状に対する質問でした。

突然の予期せぬ質問にすぐには答えられませんでした。しばらく経って「・・・でも矯正は他の領域と比べても特殊性があると思うんですけどね〜。」「矯正歯科はそれだけで独立していても良いんじゃないですか?」と否定的に答えた事を憶えています。

しかしながら矯正臨床を重ねる内にいつしかその考え方も変わってきました。

下顎が後方に下がった上顎前突症例における下顎位の前方への適応は、関節円板前方転位を伴った症例には有効なアプローチだと考えています。そして下顎位が前方位を取る事で上気道は拡張され閉塞性睡眠時無呼吸症の将来の発症リスクを低減する可能性があるとも考えております。

矯正治療は歯の並びや口元の審美的改善のみを目的にするのでなく「審美」と「機能」のバランス、まさしく一口腔を包括的に捉えることが大切であると思います。

今となっては昔の事ですが、あの時と同じ質問をされたなら今度は即答します「私もそう思います」と。