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これはこれ、それはそれ?!-相反するアプローチ-

医科領域では美容外科以外「審美」(しんび)という言葉が使われる事はあまりありませんが、歯科領域でしばしば「審美」という言葉が使われます。
「審美」とは美しいかそうでないかを見分ける事であり、いわゆる審美歯科とは美しさに焦点を当てた治療という事になります。
矯正歯科領域において「審美」と言えば1954年にアメリカ人歯科医師ロバートリケッツが提唱した横顔の美しさの基準Eライン(エステティックライン)という概念があります。
鼻の先とオトガイ部(下あごの突端部)を結ぶ線のことで上唇と下唇がこの線上やや内側にある口元が理想的な美しい横顔として提唱されたものです。

このEラインという「審美」と、口腔の「機能」とはしばしば対極となる事があると考えています。
いわゆる上顎前突症には下顎が後方に下がっているケースも含まれており診断、治療計画の際「審美」を考慮し上顎の歯を後方に下げるのか?はたまた「機能」を考慮し下顎の位置を前方に適応させるのか?それともその両方か?という判断を迫られる事があります。

ではその「審美」の対極にある口腔の2つの「機能」について説明します。

1つは”顎関節機能“、なかでも口の開け閉め時のカクンといういわゆる関節雑音の生じるケースです。
これは顎関節症病態分類Ⅲ型の関節円板障害に該当します。
つまり顎関節の骨(下顎頭)に対しその上にあるお皿(関節円板)が前方にずれている事による現象であり専門用語でいう関節円板前方転位という状態です。
対症療法とはなりますが、下顎位を前方に整位させるスプリントを用いお皿(関節円板)を本来の位置に戻す(復位)という手法をとります。

2つ目は“呼吸機能”、上気道の閉塞により睡眠時の呼吸障害が起きる閉塞性睡眠時無呼吸症(国内推定患者数は900万人以上)という疾患があります。
日常生活においてもマラソンなど有酸素運動時には上気道の狭窄は呼吸障害を起こしやすい事が知られています。
この閉塞性睡眠時無呼吸症の治療法の一つに睡眠時に装着する口腔内装置(オーラルアプライアンス、OA)があります。
これは睡眠時下顎を強制的に前方に位置づけ、気道の幅を広げる事で呼吸しやすくする装置です。
上記の顎関節機能、呼吸機能を考慮すれば下顎に前方位を取らせるケースがあるという事になります。
こうする事で関節の骨(下顎頭)とお皿はその生理的な位置関係を回復する事ができ、上気道の幅径拡大にも繋がります。

矯正治療は審美を考慮し通法に従って治療、顎関節症は顎関節症、呼吸障害は呼吸障害。
つまり「これはこれ、それはそれ」なのでしょうか?
当院ではこれとそれは大いに関係ありだと考え、「審美」と「機能」のバランスを考慮した治療を提案させて頂いております。

Drリケッツと1996年10月東京